OBエッセイ ミレニアム特別企画

対談
『建築を離れて
     〜これが私の生きる道〜』



【本日のお客さま】森戸愛花(平成8年卒・千葉大学医学部附属看護学校)
【ナビゲーター】藤 繁和
【会場】ホテルニューオータニ幕張レストランガンシップVer.8
【期日】99年12月5日(日)


For asano lab community from old members


up date 1999/12/06



趣旨

浅野研究室OBからメッセージが届きました。
言いたい放題の月刊エッセイ集。
*8月号〜11月号は休みました。






▽▲▽▲▽▲▽

▼12月号:森戸 愛花 の気持ち

●●変身、森戸愛花。
 最近は、大学生も就職活動が大変。建築関係の学校も不況のあおりを受けて、就職がままならない状況なんだよね。そこで今日は、浅野研究室OBホームページミレニアム特別企画ということで、同期の森戸愛花さまと一緒にお話してみようと、お呼びしました(笑)。何で森戸さんかって言うと、まあ、浅野研究室は、他の研究室と異質なところがあって、卒業後に建築外へと飛び出した人たちが何人かいるわけね。僕らの上の代には、劇団員がいたり、同期では森戸さんが看護の道へ。まあ、僕も片足残しているような状況で、片足は他分野みたいなものでしょ。後輩だったら、フリーのまま、まだ悩んでいるみたいだけど、映画監督を目指しそうな人もいる。他の研究室でも建築外へ出ていく人は確かにいるだろうけど、まったく道を変えてしまうというか、目標があって変える人というのは、生産工学部の建築出身では、珍しい気がするのよ。そういう訳で森戸さんと話してみようと思ったんだけど、森戸さんをその気にさせちゃった理由というのは、何だったの?
森戸 ある時期にいろんな偶然が重なったっていうのも確かにきっかけなんだけど、かっこよく言ってしまうとやっぱり建築は私が一生をかけてする仕事ではないと思ったからかな。
 うわっ、かっこいい(笑)。そうは言っても、大学には建築を選択して入ったわけでしょ?一生かけてする仕事じゃないと割り切れたのは、やっぱり、もとから心の中に「看護の仕事」ってのがあったんじゃないの?
森戸 高校生の時もともと看護婦もなりたいと思って勉強していたんだけど、高校3年生の時にいまいち明確に看護婦のイメージを抱けないままでさ。こんな私がなっていいのだろうかって不安になってきて、途中進路を変えてしまったの。大学生になってそのことは忘れてしまっていたんだけど、やっぱり時々何かの拍子に思いだすことがあって、今思えば心の片隅でしこりみたいに残っていたんだとおもう。
 卒業後、一度はゼネコンに就職したわけじゃん?それがまた急に、もともと目指していた看護婦という仕事に戻ろうと考えて、実行しちゃった。端から見ればすごい話だと思うんだけど、そうさせたきっかけっていうのは、何だったの?
森戸 きっかけっていうのは、会社の倒産と父の入院でこれが丁度同じ時期に重なったの。父は単身赴任をしていたから岡山の病院で1か月ぐらい入院してたんだけど、私は岡山に行くまえに、「今回岡山でナースの仕事ぶりを見て“なりたい”と少しでも思ったら迷わずなろう」って決めてお見舞に行った。やっぱりナースを見たらこれしかないって思って、岡山から帰った次の日から2月の受験に向けて勉強し始めた。これが97年の10月。私はもともとあまり人に相談するタイプでもないし、「これっ」て決めたら突っ走るので無我夢中で勉強した。今まで生きたなかであれほど勉強した時期はないぐらいに、3か月集中したと思う。2月に合格しなかったら、どうしようって不安で仕方がなかった。もうそのときは私の心のなかに建築はなかったし、試験に落ちて1年間勉強するなんて考えただけでも吐き気がしたしね。
 確かに急な話だった(笑)。受験した直後くらいだったのかなぁ。初めて聞かされたのは。良く受かったよね。二十歳を超えてからだったってのに(笑)。まあ、こんなにさっぱりと転換しちゃうっていうのが、森戸さんらしいなと思ったけど、そこがすごいところだと、けっこうみんな思っているんじゃないかな?
森戸 1年半しか仕事をしていない人が何を言うっていうのはあるけど、今までにたくさんの岐路があって、いろんなところでどちらかを選ばなくてはいけないって時ってあるでしょ。そういったときに私は「あっこれは大丈夫」とか「これは続きそうだ」っていう勘みたいのが働いて、だめだと思ったらしがみつかないようにいつのまにかしてたの。
 そういうのって、なかなかできることじゃないよ。
森戸 設計の仕事はずっと自分に「うそ」をついてるって気がしてならなかったくせに「いや、これはまだ本当に仕事をしていないからだ、もう少しがんばろうか」って言い訳しながら続けていたんだよね。せっかく就職できた会社だとおもったから。
 それが会社が倒産してくれた(!?)おかげで吹っ切れたのよね。やっと一日中机に向かっていなくてもいいのかと思うと、私にとって倒産は建築からの卒業だったんだよ。会社が倒産してくれたおかげで、私は建築に向いていないってことをやっと気付いたんだと思う。
 建築って言葉を他の職業や事柄に置き換えてみると、ぎくっとするけど、そういうことに気が付かない人は多いと思うよね。森戸さんは、幸せにもそういうふうに自分を見つめ直す機会があって、それに気が付いたんだね?で、どう。今は?
森戸 今病院実習に出て1か月が過ぎるんだけど、本当に看護婦になろうと決めてよかったと思ってる。私は人を対象とする仕事をしたかったんだっていうのが、改めて分かったんだよね。「この人はどうしてこんな事を言うんだろう」、「この行動はどんな意味があるんだろう」、「あの表情は何を意味しているんだろう」って考えながらいろんな人の話しを聞いて、看護を通しながら人と関われることがとてもありがたく思えますね。
 ちゃんとした看護婦になっても、この気持ちを忘れないようにしないとね。
 まさにジュージツしてるって感じだね。しかし、ずーっと、いじめっ子役だった森戸さんから聞ける話とは到底思えましぇん(笑)。
森戸 ほんとだよね。私ずっと藤君のいじめ役だったんだよね。ごめんごめん。まーでも藤君に対しては今まで通り変わらないからさ。よろしくね。
 (泣)。やっぱりこれからもそーなんだ・・・。

●●看護だって建築。
 ところで、さっきの「たくさんの岐路があって」って話は建築設計にも通じる話だと思うんだけど、森戸さんの人生論じゃなくて、看護婦という仕事の面から、大学時代や研究室でやったことって、何か役立っているとか、似ているなぁとか、感じることってあるの?
森戸 もちろん大学での建築の勉強はとても役に立っていると思うよ。病棟にいる時もたまに考えるけど、やっぱり病院は構造にしても要求されることが特殊でしょ。廊下の幅や壁の色、扉の開閉についても全てに意味があって設計されているじゃない。そうでなければ困るんだと思うけどね。
 やっぱり大学で勉強した建築の知識が、見るもの、感じるものに影響を与えているんだね。
森戸 やっぱり少しかじっただけに、そういうところに目がいってしまうよね。例えば、病棟では非常口の案内板が廊下の床に埋め込まれていて、一見すると平らなの。歩いている時だったら、引っかからない程度に微妙に(ほんと少しね)出てるのよ。でもねその微妙な段差に点滴台の滑車が引っかかるんだよね。実際に点滴を持っている患者さんはそれを避けながら歩いているんだよね。本当にこれは病棟にいなければ分かりっこないと思うけど、そういうささいなことが結構あったりする。
 建築設計者の親切、大きなお世話(笑)。
 何だっけ?老人福祉施設とかでも、壁の掲示板とか10センチまでは出していいって話があるけど、それって、そういう話になると、設計者は「なるべく出さないように」ということじゃなくて「そこまでいいんだ」っていう捉え方をされているってことが問題視されている話もあるし、実際の状況を分からないで設計することは多いのかも知れないね。設計者のほとんどは健康で、そういう体験をしないし、知らないってこともあるだろうし。
森戸 あと最近気になることは、実習をやってる病院が改装されたばかりなんだけど、患者さん用のお風呂が大きいんだよ。すごくきれいでいいんだけど、実際に患者さんが「大きくて怖い」って言って、入りたがらない。私たちみたいに健康な人はお風呂は大きいにこしたことはないって考え方をしやすいけど、患者さんは違うんだよね。安全が一番なんだよね。
 私には分からないんだけど、こういうことは設計の段階で実際に病棟や現場で働いている人に聞いたりしていないのかなって疑問に思うんだよね。だって一番患者さんにとって何がいいのか分かっているのは現場にいる人達でしょ。普通はやってるのかな。こういうことってでも言い出したらきりがないし、問題がない病院っていうのはありえないと思うけど、でも防げることってあると思う。どうなんでしょうね。
 設計者に関しては分からないけど、病院についての研究ってのは、建築の分野でもずいぶん進んでいるっていう感じがするけどね。実際、設計の段になると、研究成果を誤解して捉えられたりして違っちゃうのかな?そういうところを設計者にはもっと神経質になるくらい考えてもらったり、詳しく話を聞いてもらったりして設計してもらわないと、いつまでたっても「建築やってる人ってさ・・」みたいな捉えられ方をされちゃうよね。
 それからこの話は、建築主にも問題があると思うよ。そういう設計を提示されたときに、「それは危ないからやめてください」っていうのを言えなかったってことでしょ?
 う〜む。これは結構、根深そうな話だね。でもこれから建設業が日本のリーディング産業じゃなくなって、森戸さんみたいな進路をとった人が増えてくると、世界はきっと変わっていくよ。
森戸 大学生の時授業で、建築をこれからやっていくなら、面倒という言葉を使ってはいけないって教えられて結構今でも頭に残っているの。で、これは看護職でも一緒だなって思う。建築にしても看護にしても面倒だって手を抜くことはできないんだよね。結局どれだけ人が快適に生きていけるか、ってことに関わっていくことに変わりはない。ただそれが建築を通してか、看護を通してかってことなんだと思う。
 そうそう。そういうのって「プロフェッショナル」っていう話に通じると思うんだけど、営業職だって同じで、仕事をするからにはプロフェッショナルだという姿勢が必要だよね。大学生だって、大学生の「プロフェッショナル」になる。なかなかいないけどね。
 でも、確かに人の命に関わる仕事につくと、そういうことを強く意識するようになるのかもしれないよね。
 いや、何か本当にすごいいい話になってきた(笑)。これが森戸VS藤で出てきた話ってところがまた面白いよ。
森戸 ほんと、ほんと(笑)。藤くんと私でこんな話してていいのかしらね。でもまーこれも大人に近づいたってことで、たまにはいいでしょ。
 お互い、まだまだ発展途上人間(笑)。こんないい話、みんなヤラセとか思ってないかな?

●●やりたいことしなよ。
森戸 ところで、私は結局遠回りをしながら看護婦への道にたどり着いたわけだけど、こう考えると就職活動ってなんだったのかって思うよ。私は当時建築系の大学を出たわけだから、必ず建築関係の仕事をしないといけないと思っていたし、それ以外は考えられなかった。でもそういう人って私だけじゃないと思うんだよね。これでいいのかなって迷っている人っているんじゃないのかな。
 うん。そうだね。特に生産工の建築は多いんでないかい?そういうの。夢見て追いかける人はいいけど、夢だけ見ている人って多い気がするな。その夢の続きで建築産業に就職しちゃうわけね。で、入ってから、この仕事違ったんじゃないかとか迷い始めたりする。
森戸 でも仕事してしまうと毎月決まってお金は入るし、その後の就職活動も面倒だしってそのままになってしまうんだよね。
 私の友達で銀行に勤めている人がいるんだけど、いつも「もう辞める」って言ってるんだよね。でも結局はやめない。いつか楽しいと思える時期がくると思っているからだと思う。確かにそういう時期がくるのかもしれないし、どちらが正しい道とも言えないけど、「辞めたい」と思っている時の自分はどうなってしまうの?って思うんだよ。先にある自分のために今を生きているわけではないでしょ。いつも楽しい方に行ったほうがいいと言いたいわけではなくて、「辞めたい」と思いながら仕事をしているのは無駄だと思うのよ。結局そこには成長がない。これだと思う仕事なら「つらい」とは思っても「辞めたい」って思わないよね。自分からは何もしないのに「何か楽しいことないかなー」ってただ待っている人と同じだよ。自分で考えて行動しないと何も始まらないんじゃないのかな。
 出たっ!!森戸さんの辛口トーク(笑)。
森戸 私も人のせいにしたくなる時があるけど、そうやって振るい立たせて言い聞かせてるんだよね。どうなったとしても自分の責任なんだよ。
 それに気が付かない人もいるし、考えたこともない人もいる。
森戸 そういった意味で私は本当にラッキーだったと思うよ。考える時期と転身する機会をもらったわけだからさ。それに私にとって看護婦になる時期は今が遅くもなく早くもなく一番良かったと思う。高校卒業してすぐだったら今の私ではないからね。それと大学時代の友達や先生との出会いは私の中で貴重なものだから本当に行っておいて良かった(両親に感謝)。
 じーん(感動)。俺もその中の一人に入っているのかな?って、答えは言わないでいいよ。傷つきそうだから(笑)。しかし、森戸さんってのは、マジでポジティブシンキングな人だよね。みなさんも見習いましょう(笑)。で、そんな森戸さんのこれからを聞かせてくれる?
森戸 これから私は看護婦なるわけだけど、まだまだこれからって感じなんだよね。確かに看護婦として一生働く覚悟はあるけど、それだけでは嫌。
 何ですと!?
森戸 看護婦を基盤に何か新しいことをまたしたいって気持ちがある。それには早く一人前の看護婦にならないとな〜。
 森戸さんが次に何を始めるのか、楽しみだなぁ。看護の道も険しいと思うけど、これからも頑張って下さい。今日はどうもありがとう。
森戸 長い間私のとりとめのない話しに付き合ってくれてありがとうございました。また仕事頑張ってください。で、何で私のイメージ写真、椎名林檎なの?
 ・・・・。

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